消えゆくものたちに光を。それが映画の使命だ。
INTERVIEW
「大津 city 今恋心」太田信吾
太田信吾
大津 city 今恋心

「誰も考えないこと、直視しようとしないこと、それらをちゃんと提示したいと思います。」

太田監督は、母校である早稲田大学文学部の研究室で、静かに語り出した。

「新しい価値観やタブーとされていることはじつは映像だからこそ、伝えやすいのではないでしょうか。だから僕は、新しい価値観や言い出しにくいことをテーマにして意識しています。」

大津 city 今恋心

その根底には、大学で学んだ哲学のエッセンスがあるという。

「僕が学んだ哲学のなかに『物語論』というのがあって。国家や集団が主語になり語られる(大きな)物語は、常に顕在化しない物語を同時に生み出す宿命にあります。そのような零れ落ちてしまった、そのままにしておいたら忘却されてしまうかもしれない、そんな物語を想像力や取材、あらゆる手段を駆使して掬い取りたいと思うんです。」

大津 city 今恋心
大津 city 今恋心

太田監督は、前作『解放区』の撮影中に、今回の主人公である“ダンシング義隆"さんに出会った。

「偶然、彼がライブをしていた場所にいたのですが、演奏や歌詞がものすごく印象的で。等身大にこの社会と向きあって紡ぎ出された歌詞や曲に強烈な説得力がありました。人間ですから、だらしない部分や失敗は誰にでもあります。でも、たいていの人はそれらを隠して美談を語る人が多いと思います。」

大津 city 今恋心

「でも、義隆さんは違う。オープンに丸裸で生きて音楽を続けていることも、彼に惹かれた理由です。彼こそ、本物のロックンローラーだと感じました。」

太田監督は、その後、彼の人生を知るにつれ、彼の家族の生い立ちや故郷である大津の歴史を紐解いていく。大津には、かつて米軍キャンプがあり、義隆さんたち兄弟がロックに傾倒していく流れに少なからず影響を与えたことを知るに至ったという。

「この視点は今、絶対に残さなくてはと、直感的に感じたんです。」

戦争をはじめとする過去の歴史や過ちは、歳月とともに消え去ってしまう。だからこそ、そのひとつひとつのシーンを直接映像で残すことで、もう一度見つめ直すことができるのだ。

太田監督は、そうした作業を丁寧に続けている。

大津 city 今恋心

「純粋な芸術であるはずの音楽が、いつの間にか権威や消費社会と結びつき、経済の仕組みのなかで存在している。おかしいと思いませんか?」

太田監督は、さらに言葉を畳み掛ける。

「社会と向き合うからこそ生まれる音楽があります。そして本来音楽とは、誰にも開かれたものではないでしょうか。僕には、それを伝える使命があると思っているんです。」

映像の力を信じ、映像で世界を変えていく。 朴訥に語る太田監督の言葉には、大きな覚悟が眠っている。

本編

予告編

メイキング映像

太田信吾

Shingo Ota

(株)デューズ/映画監督・俳優。長野県出身、ソウル特別市在住。1985年9月12日生まれ。早稲田大学文学部にて哲学・物語論を専攻。歴史叙述から零れ落ちるオルタナティブな物語を記憶・記録する装置として映画制作に興味を持つ。処女作『卒業』がIFF2010優秀賞・観客賞を受賞。『わたしたちに許された特別な時間の終わり』が世界12カ国で配給される。他に『解放区』(18年劇場公開)等。